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2021年12月7日、マイティ・アースは報告書「隠蔽の煙幕:住友商事の『カーボンニュートラル』失敗の数々」の日本語改訂版を発表しました。住友商事が、パリ協定や1.5度シナリオに沿った事業を展開するためには、多くの課題があります。マイティ・アースは住友商事に対し、バングラデシュの「マタルバリ2」石炭発電所への関与を断念し、2040年までに世界のすべての石炭発電から撤退すること、木質バイオマスへの関与をやめ、天然林の大規模皆伐と、経済林への転換を含む森林破壊を行わない(NDPE)方針を全社的に採用することを求めます。
また住友商事の2021年の株主総会で、20%の株主が気候変動に関する決議に賛成したことはポジティブに受け止めており、株主に対して今後も同社とのエンゲージメントを継続することを強く求めます。
以下のレポートで、気候変動に関する住友商事への提言の全文をご覧ください。
2021年6月10日
(ワシントンDC)– 本日、公開されたマイティ・アース(Mighty Earth)の報告(英文)では、住友商事株式会社が世界各地の事業活動で、最も深刻な環境汚染や環境破壊の原因となる形態のエネルギー生産に深く関与していることを詳細に述べ、今回の株主提案がどれほどの緊急性を帯びるものであるのかを強調している。「隠蔽の煙幕:住友商事の『カーボンニュートラル』失敗の数々」と題された同報告では、同社は大規模な炭鉱を所有し、深刻な環境汚染を引き起こす石炭火力発電所を新たに東南アジアに建造し、石炭火力発電所で混焼する木材を輸入するなど、様々な事業分野において、日本の産業の石炭への依存を最も強力に支えている企業の1つであることが紹介している
「住友商事は、地上で最も深刻な環境破壊を引き起こす燃料を開発、輸送、燃焼し、またその資金提供や運送にも関与する、世界の石炭およびバイオマスの流通網の中心企業の1つです」と、マイティ・アースの日本プロジェクトマネージャーであるロジャー・スミスは述べている。「住友商事は、2050年までに『カーボンニュートラル』を実現するという、甘言で環境に優しい姿を装っていますが、同時に今後20年以上にわたって深刻な環境破壊を引き起こす化石燃料関連の事業計画を立てており、株主はこうした偽善をもう許せなくなっているのです。住友商事は速やかに化石燃料関連の事業から手を引き、クリーンで再生可能なエネルギーに移行していくための、厳しい気候変動行動計画を採用すべきである。」
住友商事は、排出量を削減するために適切な対策を講じてこなかったとして、6月18日に予定されている定時株主総会で、日本の商社としては初めて気候変動関連の株主提案により、投資家から改善を迫られることになる。この株主提案は、2020年のみずほフィナンシャルグループでの株主提案に続いて、日本で史上2件目の気候変動関連の株主提案である。「この動きは、各企業が実質的な気候変動行動計画の実施に至っていないことに対して、投資家の間で改善を迫る声が高まっていることを反映するものである」と、ワシントンDCに拠点を置く環境保護団体マイティ・アースは本日述べている。
「住友商事は明確な岐路に立たされています」とマイティ・アースのスミスは述べる。「ひとつの選択肢は、株主からの懸念の声に応え、世界各地での二酸化炭素排出量を2015年のパリ協定の目標に合致する水準まで削減し、再生可能エネルギー業界を率いる会社に転換する道です。そうできなければ、深刻な環境汚染を引き起こす20世紀型産業の枠組みに固執し、今後も損失を出し続けて、対策の遅れに伴って株主からの懸念も年々深刻化する事態に陥るでしょう」
同社が石炭への依存からの早期脱却に向けて動いていないことに関して、投資家の間で苛立ちが広がっている。2015年のパリ協定の目標が達成できるよう、同社に戦略の見直しを求める株主提案が出されるに至ったのも、そのためである。パリ協定では、産業革命前の水準と比較して、地球全体の気温上昇が2℃を十分に下回る水準に抑え、さらには1.5℃まで抑えることを目指すことが掲げられている。
2021年5月住友商事は、「気候変動の防止およびカーボンニュートラルな社会の実現に関連する様々な問題の解決に貢献する」という目標を掲げ、それに合わせて気候変動行動計画を更新した。しかし、同社の実際の気候変動問題に対する方針はパリ協定が求める水準には遠く及ばず、同社が森林からの燃料を燃やし、バングラデシュで新たに2基の石炭火力発電所の建造を今後開始し、ポートフォリオで天然ガスが占める割合を増やし、燃料炭鉱での採掘を2030年まで続け、石炭火力発電所を2040年代後半まで稼働させることが許容されている。住友商事では、短期的にも二酸化炭素排出量が高い水準であるにも関わらず、森林由来の輸入バイオマスへの依存が高い状態が続いており、北米の森林の生態系を含めて、森林の繊細な生態系の破壊防止を目的に策定すべき森林破壊に対する方針も策定していない。
住友商事は、発電所で燃やす木材ペレットを「バイオマス燃料」としてアメリカおよびカナダから輸入しており、その輸入量は大幅に増加し始めている。住友商事傘下のペレット会社は最近、ブリティッシュコロンビア州の老齢樹林(原生林)での伐採計画が明るみに出たことで、非難を集めている。また、同社のアメリカ南東部の主要サプライヤーは、すでに生態系にダメージが生じている森林で根元から伐採した樹木を使用している。アメリカおよびカナダで木材ペレットの生産量が急速に増加しており、また日本が世界で最も急成長中のペレット市場となっている現状に対して、科学者からは警告の声が上がっている。今年2月、500人の学者から、バイデン大統領、菅総理大臣、およびその他の世界の指導者宛に、化石燃料を燃やす代わりに樹木を燃やすことの危険を訴える公開書簡が送られた。同書簡では、「樹木は、気候変動に関しても生物多様性に関しても、生きていてこそ価値があるものです。正味ゼロエミッションの目標を今後達成するには、各政府は森林を燃やすのではなく、森林を保全して復元する努力を行うべきです」と警鐘が鳴らされている。
環境保護団体Market Forcesの福澤恵氏からも、同様の声が上がっている。「私たちは臨界点にいるため、パリ協定の目標を達成するのに必要な短期、中期目標が緊要です。住友商事の現在の計画はこの目標を達成するのには明らかに不十分です」と福澤は述べる。さらに福澤は「住友商事の計画は、気候にとって大惨事を引き起こすものであるのみならず、パリ協定に沿っていない、整合性のないタイムラインの化石燃料資産の撤退計画を考えると、座礁資産リスクへのエクスポージャーを抱える投資家に対しても危険である」と警鐘を鳴らしている。
こうした事業は、環境面で恐ろしいほどの代償を伴うものだ。しかし同時に、住友商事は事業活動をより環境に優しい生産方式に転換することを拒否することで、財政面でも大きな代償を払っている。2020年度、住友商事はオーストラリアの石炭火力発電所事業で260億円を、アメリカのマーセラスおよびイーグルフォードでの石油および天然ガス関連プロジェクトで80億円を、そして発電所の建造費用や建造遅滞に関連する損失として540億円を、それぞれ失っている。これらの損失は、住友商事全体の損失額である1531億円の半分以上を占めている。
以上
マイティー・アース(Mighty Earth)
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